2025年11月28日、厚生労働省から全国の都道府県に向けて、介護分野への新たな緊急支援策に関する事務連絡が発出されました。
物価高騰や慢性的な人手不足に対応するため、国が「令和7年度補正予算案」に盛り込んだ3つの大きな支援事業。
ニュースでは「賃上げ」や「補助金」という景気の良い言葉が並んでいますが、居宅介護支援事業所の管理者として内容を読み解くと、「本当に全員に行き渡るのか?」という懸念点も見えてきました。
昨年の補正予算では「知らなかった」ために申請できなかった事業所が約2割もあったそうです。
まずは制度の概要を押さえつつ、現場視点での課題についてもまとめます。
今回発表された3つの支援事業
今回発表されたのは、主に以下の3つの柱です。
- 介護職員の賃上げ・職場環境改善支援(給与アップ)
- 事業所へのサービス継続支援(備品購入・ガソリン代など)
- 施設への食事提供支援(食材費補助)
それぞれ詳しく見ていきます。
1. 介護職員の賃上げ・職場環境改善支援事業
最も注目度が高いのがここです。
【目的】 介護職員の給与を上げ、人材流出を防ぐため
【対象期間】 令和7年(2025年)12月 ~ 令和8年(2026年)5月
支援内容は以下の3階建てになっています。
- ① ベースの賃上げ支援:月額 1.0万円
- 多くの介護従事者が対象となる基本部分です。
- ② 上乗せ支援:月額 0.5万円
- 生産性向上(ICT活用など)や協働化に取り組む事業所の職員が対象です。
- ③ 職場環境改善支援:月額 0.4万円相当
- 職場環境の改善に取り組む事業者への支援ですが、これを職員の賃上げ(人件費)に充てることも可能です。
計算上は、要件を全て満たせば職員1人あたり月額最大 1.9万円の支援が受けられることになります。
2. 介護事業所等に対するサービス継続支援事業
【目的】 物価高や災害に負けず、サービスを続けるため
【内容】 必要な物品購入費などを補助してくれます。
- 何に使えるの?
- 移動・送迎経費(ガソリン代など)
- 熱中症対策(ネッククーラー、業務用エアコンなど)
- 災害対策(水・食料の備蓄、発電機、ポータブル電源など)
- いくらもらえるの?(上限額の例)
- 訪問介護:20万円 ~ 50万円(訪問回数等による)
- 通所介護:20万円 ~ 40万円(利用者数による)
- その他の事業所:20万円
- 施設系:定員1人あたり6千円(※実入居者数ではなく、施設の「定員数」で計算される見込みです)
小規模な事業所でも、災害対策備品などを揃える良い機会になりそうです。
3. 介護施設等に対するサービス継続支援事業
【目的】 食材費高騰の中でも、食事提供を続けるため
【対象】 特養、老健、介護医療院、養護老人ホームなど
【内容】 食材料費の補助
【金額】 定員1人あたり 1.8万円(※実入居者数ではなく、施設の「定員数」で計算される見込みです)
施設運営において負担の大きい「食費」に対する直接的な支援です。
【現場の視点】ICT要件の壁と、満額受給のハードル

今回の発表は、金額だけ見れば明るいニュースですが、現場で働く身としては「絵に描いた餅」にならないか、大きな懸念があります。
特に気になるのが、上乗せ支援(月5,000円)の要件となっている「ICT活用(ケアプランデータ連携システムへの加入など)」です。
一般従事者にはどうしようもない「システム環境」の問題
国はDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環としてデータ連携を推奨していますが、実際の介護現場の実情はそう単純ではありません。
居宅介護支援事業所などでは、個人情報保護を最優先するため、「セキュリティ保護のためにあえて業務PCをインターネットに繋げていない」という事業所も多く存在します。 また、自社サーバー(オンプレミス)で介護ソフトを運用している場合、それを「ケアプランデータ連携システム」に対応させるには、サーバーの再構築や大幅なシステム改修が必要になるケースがあります。
経営者は導入を決断できるか?
ここで問題になるのが、コスト対効果です。
「月5,000円の補助金をもらうために、それ以上の莫大な費用がかかるシステム改修やツール導入を経営者が決断するか?」というと、疑問符がつきます。
- インターネット環境の壁:セキュリティポリシーの変更が必要
- ソフトの仕様の壁:現在使用中のソフトが対応していない可能性
- コストの壁:ツール導入費やランニングコスト
これらの条件は、現場のいち職員が「頑張ります」と言ってどうにかなる問題ではありません。
もし事業所が「ウチは対応できない」と判断すれば、その時点で職員への上乗せ支援(5,000円)は消滅します。
これが本当に「処遇改善」として機能するのか。
私の現在の職場環境を考えても、満額の受給は正直なところ難しいのではないかと感じています。
まとめ:今後の情報は「都道府県」から
この事務連絡は、国から都道府県に対し「年内に予算化の検討を進め、できるだけ早く申請受付を開始してほしい」と依頼するものです。
- スケジュール:補正予算成立後、早ければ年明け頃から動きがある予想
- チェック先:申請窓口は「都道府県」
単純に「給料が上がる!」と手放しで喜ぶのではなく、自分の事業所が要件を満たせるのか、冷静に見極める必要がありそうです。
詳細な要件や申請方法について、続報が出次第、またブログでも取り上げていきたいと思います。
出典:厚生労働省 老健局 事務連絡(令和7年11月28日)
