ついに国が動く、異例の全国調査

2025年12月22日の報道によると、厚生労働省は来年(2026年)1月から、訪問看護ステーションに対する全国一斉調査に乗り出す方針を固めました。
ターゲットとなっているのは、近年急増している「ホスピス型有料老人ホーム」や精神科訪問看護などにおける、報酬の不正・過剰請求問題です。

私たちケアマネジャーの業務にも深く関わるこの問題。現場で感じてきた「なぜ?」の答えが、ようやく明るみに出ようとしています。

1. そもそも「訪問看護」とは何か?

まず、基本をおさらいしておきましょう。訪問看護とは、主治医が「必要」と認め、発行する「訪問看護指示書」に基づき提供されるサービスです。

  • 誰が来るのか
    看護師や准看護師、または理学療法士(PT)・作業療法士(OT)などのリハビリ専門職です。
  • 何をするのか
    健康状態の観察、医療処置(点滴や褥瘡ケア)、服薬管理、リハビリテーション、そして看取りのケアなど多岐にわたります。
  • 対象者
    介護保険の要介護者だけでなく、特定の条件下では「医療保険」が適用され、週4日以上の頻回訪問が可能になります。

ケアマネジャーである私も、利用者の医療的ケアや服薬管理のためにケアプランに位置づける重要なサービスです。しかし、この「医師の指示」という部分が、ある種の「聖域」となっていました。

2. 現場で感じていた「違和感」と急成長の裏側

ここ数年、医療・介護業界は慢性的な人手不足です。しかし、不思議な現象が起きていました。
「なぜか訪問看護ステーションには、若い看護師や理学療法士が集まっている」のです。

病院が「人がいない」と嘆く一方で、訪問看護の分野ではステーションの開設が相次ぎ、中には有料老人ホームを次々と買収する訪問看護ステーションを経営する企業も現れました。
「一体どこからその潤沢な資金が出ているのか?」と疑問に感じていましたが、今回のニュースでそのカラクリの「一端」が報じられました。

3. 報じられた「不正」の手口とは

新聞報道によると、一部の悪質な事業者で見られる手口は以下のようなものです。

  • 時間の水増し
    実際には数秒〜数分しか訪問していないのに、報酬が高い「30分以上」の区分で請求する。
  • 過剰な訪問回数
    利用者の必要性に関係なく、加算報酬を得るために「1日3回」など上限いっぱいの訪問を繰り返す。
  • 書類の改ざん
    虚偽の訪問職員数や時間で報酬を請求する。

この背景には、「特掲診療料の別表第7・第8」という制度の存在があります。これらに該当する(末期がんや人工呼吸器装着など)と、医療保険での訪問が無制限になり、高収益を生む「ターゲット」にされやすいのです。

4. 制度の「抜け道」? 特別訪問看護指示書の常態化

そしてもう一つ、私が現場で強く問題視しているのが、「特別訪問看護指示書(特指示)」の不自然な運用です。

本来、この指示書は「肺炎で熱が出た」「最期の看取りの時期」など、急性増悪(急激に状態が悪化した場合)等に限り、一時的に(原則14日間)医療保険を使えるようにする緊急用のカードです

しかし、一部の有料老人ホーム等では、こんなことが起きています。

  • 「毎月」のように特別指示書が出される: まるでスケジュール帳に組み込まれているかのように、毎月決まって指示書が発行される。
  • 目的は「介護保険の穴埋め」: 状態が悪化したからではなく、「介護保険の限度額がいっぱいで訪問看護に入れないから、特指示をもらって医療保険で入ろう」という調整に使われている。

形式上は医師が「必要」と認めて発行しているため、「不正」ではありません。 しかし、「緊急時の手厚いケア」という制度本来の趣旨を無視し、介護保険で賄えない分を医療保険(税金)に付け替えるための「便利なツール」として常態化しているとすれば、それはモラルハザードではないでしょうか。

5. ケアマネジャーが踏み込めなかった「時間設定の壁」

次に「時間の決定権」の問題です。

通常の介護サービスであれば、ケアマネジャーが利用者の生活に合わせて時間を調整します。
しかし、訪問看護に関しては「医師の指示書」と「看護師の判断」が優先されます。
「医学的な管理上、この時間が必要です」と言われれば、私たちケアマネジャーが「その訪問時間は長すぎるのでは?」「その回数は本当に必要なのか?」と口を挟むことは極めて困難でした。

今回の調査は、この「ブラックボックス」化していた領域に、国が初めて本格的にメスを入れることを意味します。

【まとめ】本来あるべき「支援」を取り戻すために

もちろん、多くの訪問看護ステーションは、真摯に利用者と向き合い、在宅生活を支える不可欠な役割を果たしています。令和6年度の改定でも、質の高い訪問看護や、24時間対応体制への評価は手厚くなっています。

しかし、制度の隙間を突いて利益のみを追求する一部の事業者がいることで、真面目な事業者が割を食い、何より国民の負担(税金・保険料)が増大することは許されません。

今回の全国調査によって膿が出し切られ、訪問看護が「儲かるビジネス」としてではなく、「真に利用者を支えるインフラ」として正当に評価される環境になることを、一人のケアマネジャーとして強く願っています。