また、現場を置き去りにした議論が進んでいます。

先日、厚生労働省が住宅型有料老人ホーム等の入居者に対し、ケアプラン作成費用の自己負担を求める方向で最終調整に入ったという報道がありました。

なお、本記事の内容は現時点での報道に基づくものであり、正式に決定した事項ではありません。
これからの議論で変わる可能性もありますが、あくまで一人の現役ケアマネジャーとしての主観的な見解としてお読みください。

「公平性の確保」や「財源確保」、さらには「囲い込みの防止」など、もっともらしい理由が並んでいますが、現場の人間として言わせていただきます。

「一体、何を話し合っているのか?」

今回の有料化議論、現場から見ると矛盾だらけで、まさに本末転倒です。

そもそもケアマネに「いくら」払うことになるのか

現在、居宅のケアプラン作成費用(居宅介護支援費)は全額介護保険から給付されており、利用者の自己負担はありません。

これを有料化するとどうなるか。

要介護認定を担当しているケアマネジャーの報酬は、基本報酬に特定事業所加算を加えると、利用者1人あたり月額約12,000円から18,000円になります。

仮にこれを、他のサービス同様に自己負担あり(1割〜3割)にするとどうなるでしょうか。

負担割合月額の自己負担目安
1割負担約1,200円 〜 1,800円
2割負担約2,400円 〜 3,600円
3割負担約3,600円 〜 5,400円

毎月これだけの支払いが新たに発生することになります。
これまで支払う必要がなかったケアマネジャーに対して新たに支払いが必要になる。
介護保険サービスが開始され、状態が落ち着いている利用者さんにとっては、「毎月払いたくない」と感じる金額でしょう。

「払いたくないなら自分でしなさい」は通用しない

「お金がかかるなら、ケアプランは自分で作ります(セルフケアプラン)」
そう考える方もいるかもしれません。

しかし、それは現実的ではありません。

ケアマネジャーの仕事は、利用者さんからは見えない部分が非常に多いのです。

  • ケアプラン作成と交付
  • サービス事業所との連絡調整
  • 毎月の提供表の作成、配布、実績の受け取り
  • 行政への各種申請手続き
  • 国保連への給付管理(これが最も複雑)
  • 介護保険の更新申請

これらを毎月、遅滞なく、ミスなく行わなければ、サービス自体が利用できなくなったり、全額自己負担になったりするリスクがあります。
これだけの専門的な事務作業を、利用者や家族が毎月こなすのは至難の業です。

結局のところ、利用者は「支払わざるを得ない」状況になります。

誰がやるのか?その「集金業務」

私が最も懸念し、憤りを感じているのはここです。有料化するということは、「事業所が利用者から利用料を徴収しなければならない」ということです。

ただでさえ忙殺されている毎日の業務の中に、新たな事務作業が降りかかってきます。

  • 請求書や引き落とし用紙の作成・記入依頼
  • 毎月の引き落とし確認
  • 引き落としできなかった時の連絡・再請求
  • 未納時の対応

「・・・誰がしたいですか、こんな仕事。」

ケアプラン有料化で増える請求書作成や集金業務などの事務負担イメージ

国は「ケアマネ不足だ」「処遇改善が必要だ」と言いながら、報酬を生まない事務作業を増やそうとしています。

現場の疲弊を加速させるだけではないでしょうか。

支払うお金が発生することで、利用者とケアマネの関係性が歪んでしまう恐れもあります。

これまでは「保険制度の範囲内での支援」という共通認識がありましたが、自己負担が発生すれば「お金を払っているんだから、これくらいやってよ」という要求が出てくるのは目に見えています。

  • 「あそこのケアマネはやってくれるらしいよ」
  • 「高いお金を払うんだから、休日の対応もして当然でしょ」
  • 「法律? こっちは客だぞ。」

ただでさえデリケートな対人援助職において、こうした「カスタマーハラスメント(カスハラ)」のリスクが跳ね上がることを恐れてしまいます。

「お金」というフィルターが入ることで、ケアマネジメントの中立性や、本来あるべき信頼関係が崩れてしまうのではないでしょうか。

「囲い込み」対策なら法律を変えるべき

今回の有料化の背景には、住宅型有料老人ホーム等による利用者の「囲い込み」が問題視されていることもあるようです。

しかし、もし実態として「施設」のような運営がなされ、囲い込みが起きているのであれば、小手先の有料化で対策するのではなく、老人福祉法などの法律を変えて、明確に「介護施設」として統一すればよいのではないでしょうか。

「住宅扱いだから(制度上は居宅だから)」という建前を残したまま、都合の悪い部分だけを入居者への負担(有料化)とケアマネへの業務負担に転嫁しているように見えます。

目先の給付減ばかり見ていないか

今回のニュースを見て感じるのは、制度の持続可能性という言葉を隠れ蓑にして、「目先の介護保険給付を減らすこと」ばかり考えているのではないか、という疑念です。

現場のケアマネジャーが本来の支援業務に集中できる環境を整えず、新たな集金業務を押し付け、利用者には負担を強いる。 それでいて「ケアマネ不足解消」などと言われても、響くはずがありません。

これは「全利用者負担」への布石ではないか

そして、多くのケアマネが薄々勘付いていることがあります。 「最初は『有料老人ホームだけ』と言いながら、すぐに全利用者に適用してくるだろう」ということです。

まずは反発の少なそうなところ(あるいは理由をつけやすいところ)から導入し、既成事実を作る。

一度仕組みができてしまえば、「公平性」を逆手に取って、「施設が有料なんだから、居宅も有料に合わせるべきだ」と範囲を拡大していく未来が容易に想像できます。

今回のニュースは、単なる「一部の有料化」ではなく、ケアマネジメント全体の有料化に向けた「蟻の一穴」になりかねません。

現場の実態とかけ離れた、本末転倒な議論。 もっと根本的な制度設計の見直しが必要ではないでしょうか。